“昔のまんま”の醤油づくり。ふるさとの味を親から子へ伝える、明治屋醤油

日本を代表する調味料と言えば、醤油ですね。昔は、近所の醤油屋さんで醤油を買い求めたと思いますが、最近はスーパーなどで安く手に入るようになりました。そんな中、浜松には、昔ながらの醤油屋さんが息づいています。

浜北区で、“昔のまんま”の醤油づくりを続けているのは、明治8年に創業の、明治屋醤油さん。「やままん醤油」の屋号で地域に親しまれてきた、老舗の醤油屋さんです。

明治屋醤油さんが、100年以上も地域の人々に愛されてきたのは、なぜでしょうか?明治屋醤油さんを訪ねて、真心こもった醤油づくりを見学してきました。


親から子へ、家庭で受け継がれる味を

明治屋醤油さんは、浜北区小松にて、明治8年に創業された醤油醸造所です。初代の野末 萬吉(のずえ まんきち)さんから数えて、現社長の野末 一宏(かずひろ)さんで5代目になるそうです。一宏さんの息子さんである、若き6代目の野末 将平(しょうへい)さんも、10年ほど前から醤油づくりに携わっています。

数えれば、144年。度重なる戦争や不況など、時代の荒波を乗り越え、明治屋醤油さんは続いてきました。大切にしてきたのは、「家族の食卓の思い出に、“懐かしい味”が受け継がれていくこと」。明治屋醤油さんは、“昔のまんま”の醤油とともに、家庭の豊かさや日本の文化を次世代に繋ぐことを大切にしています。


明治屋醤油さんは、「やままん醤油」の屋号で地域に親しまれてきました。「やままん」は、味噌・醤油の醸造所によく付けられた「八(やま)」という記号を用いています。そこに、創業者である萬吉さんの「萬(万)」の字を組み合わせたそうです。「八(やま)」には、“他よりも高いこと”という意味もあります。「醤油づくりによって家が発展し、その頂点を極めたい」という、萬吉さんの強い想いが感じられる屋号ですね。


明治屋醤油さんのある浜北区小松の周辺は、醤油づくりに最適な土地なのだそうです。醤油の原料となる大豆や小麦が、昔からよく穫れました。地下水には、引佐の先に続く赤石山脈の伏流水が流れています。今でも明治屋醤油さんでは、その地下水を井戸で汲み上げ、醤油づくりに使用しているとのことです。実は、明治屋醤油さんのまわりには、最盛期で10カ所ほど醤油屋さんが点在していたそうです。今では、その数は3カ所に……。これほどまでに激しい時代の変化の中にあって、明治屋醤油さんが守り抜いてきた醤油づくりとは、一体どのようなものなのでしょう?


参考:明治屋醤油ホームページ「歴史とお醤油づくり


変わらぬ味は、昔ながらの「天然醸造」にあり

明治屋醤油さんが守り抜いてきたのは、100年以上も前から変わらない“昔のまんま”の醤油の味。基本となる醤油の原料は、シンプルに大豆、小麦、塩だけです。蒸した大豆に炒った小麦を加え、麹菌をつけて「もろみ」を熟成させています。(熟成した「もろみ」を搾ることで、きれいに澄んだ醤油ができあがります。)

大量生産が主流となった現代では、工場で生産される「もろみ」の熟成期間は、6ヶ月ほどだそうです。これは、工場内で、温度を厳密に管理することで実現される、短期熟成の技術によるものです。

明治屋醤油さんでは、1年半から3年の熟成期間を持たせています。この、夏の暑さも冬の寒さも「もろみ」に伝える熟成方法は、「天然醸造」と呼ばれています。「天然醸造」を用いることで、コクと旨味が引き立ち「昔ながらの醤油」に仕上がるのだそうです。

「もろみ」を仕込む醤油樽を、見せていただきました。明治屋醤油さんの歴史を一身に受けて、醤油樽は、工場内にひっそりと佇んでいました。1度に約3,600リットルもの「もろみ」を熟成させる木桶も、隣の部屋に並んでいます。

伝統的な醤油づくりでは、木桶を長年使い続けます。それは、器材に菌(微生物)が住みつくことで、その蔵特有の醤油の味が出来上がるため。同じ器材を使いこむことで、工場での大量生産では出せないような、深い味わいに仕上がるのですね。

さらに、明治屋醤油さんでは、醤油の原料にもこだわっていました。大豆は富山県産、そして、小麦は北海道産を使っているそうです。とくに、「蔵出し醤油」に使われる大豆と小麦は、自然栽培(※1)によって、自社の畑で育てたものだそうです。日本で消費される大豆や小麦は、今やほとんどが輸入ものです(※2)。そう考えると、自然栽培で育てられた国産の大豆や小麦が、どれだけ貴重なものか分かります。

塩も、オーストラリアやメキシコの海水からつくられる天日原塩を使っています。にがり成分が多く含まれているので、おいしい醤油ができるそうです。また、「(他の)麹菌をまぜてはならない」という、先代の強いこだわりを守り、50年近くも同じ麹菌を使い続けているとのことでした。


(※1)農薬や化学肥料を使わず、自然の力に任せた作物の育て方。定義は、生産者によって多少変わります。

(※2)日本国における大豆(食品用)の自給率は、約25%(参照:農林水産業「大豆の豆知識」より、2016年度データを参照)。日本国における小麦の自給率は、約12%(参照:総合食料自給率(カロリー・生産額)、品目別自給率等より、2016年度データ)


醤油づくりとともに受け継がれる、先代の想い

▲5代目、現社長の野末 一宏さん

なぜ、明治屋醤油さんでは、“昔のまんま”の醤油づくりを守り続けているのでしょう?そこには、代々受け継がれてきた「教え」がありました。

5代目の一宏さんが尊敬してやまない、3代目の野末 里平(さとへい)さんの姿勢に「教え」を見出してみましょう。里平さんは、醤油づくりに厳しく、こだわりを曲げない方だったそうです。一方で、勤勉と倹約で知られる二宮尊徳の教えに忠実で、地域の支援にも熱心な当主だったようです。


6代目の将平さんが守り続けているのは、「醤油づくりは止めちゃだめだ」という4代目、野末政成(まさなり)さんの「教え」です。将平さんは大学で醸造学を学んだのち、一度は一般企業に務めるも、1年半後には家業を継ぐため実家に戻りました。

明治屋醤油さんでは、一般家庭用のほかに、地域のお店にも醤油を卸しています。佃煮屋さんやお蕎麦さん、お弁当屋さんなど。醸造方式の違いにより、濃口だけで濃さや味わいの異なる醤油が約10種類もつくられているそうです。「醤油づくりは、発酵のプロセスがおもしろくて好きです」。6代目の言葉から、醤油屋としての誇りが感じられました。

そんな将平さんは、伝統を守りながらも、新たな可能性に挑戦する若きつくり手です。醤油づくりの知識を活かしたおいしい味噌づくりのほか、浜納豆など加工品の製造も進めています。明治屋醤油さんの新しい歴史にも、期待が高まりますね。


すっきりと香り高い、搾りたての醤油「生揚(きあ)げ」をいただく!

明治屋醤油さんでは、活きた「生揚(きあ)げ」をお土産に持ち帰らせてくれる、醤油搾りの体験会を開いています。「生揚げ」とは、搾りたての醤油のこと。一般に買うのは難しい品です。市販されている醤油は、通常、加熱処理がされています。それにより、醤油の中の麹菌を失活させるためです。

木製の搾り器で、80ミリリットル入りのボトル約1本分の「生揚げ」が採れました。搾っている最中から、ふわっとよい香りがしていましたよ。味わいは、まろみがありながらも、すっきりとした後味です。辛みやしょっぱさは、思ったほど感じられません。

6代目がオススメする「生揚げ」の食べ方は、卵かけご飯にかけること!鯛(タイ)など、淡白な魚のお刺身との相性もバツグンだそうです。私は、釜揚げのうどんに、ツーっと生揚げを垂らしていただくのが好みです。醤油がすっきりしているので、薬味はネギだけ。シンプルにいただくのが最高です。

ちなみに「生揚げ」は、冷蔵庫で保存します。ただし、麹菌が生きているので、開封後は早めに食べきるのが良いそうです。明治屋醤油さん、貴重な体験をありがとうございます!


蔵見学や醤油搾りの体験は、随時受付中!

変わらぬ味を次世代につなぐ明治屋醤油さんでは、蔵の見学や醤油搾り体験を、随時受け付けています。電話で予約をすると、必要な機材などを準備をしてくれるので、手ぶらで参加できますよ。ご家族や友人同士でも気軽に足を運べるよう、人数の下限もないそうです。

▼明治屋醤油の工場見学について

http://meijiyashouyu.com/factory_tour

店先では、醤油や味噌といった商品も買うことができます。みなさんもぜひ、明治屋醤油さんを訪れてみてはいかがでしょうか?その“昔のまんま、ふるさとの味”に触れていただけたら嬉しく思います。


明治屋醤油株式会社

創業:明治8年(1875年)

定休日:日曜・祝日

TEL:053-586-2053

営業時間:平日 10:00~18:00、土曜 10 :00~16:30

所在地:静岡県浜松市浜北区小松2276

菅原 岬|浜松在住ライター

浜松在住在住ライター、菅原 岬 のページをご訪問くださり ありがとうございます。 ・不動産関連企業での新規開拓、収益管理の経験 ・タイ、バンコクでの日系企業様設立サポートの経験 を活かし、浜松企業さまの収益向上に貢献する情報発信をしています。

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