浜松のまちなかから車で1時間!天竜の森でリフレッシュ
お花見やピクニックなど、イベントの多い春。森へ散策に出かけてみるのはいかがでしょう?溢れるマイナスイオンや樹のぬくもり。森はいつでも、私たちに癒しをくれる場所です。
実は、浜松市の約7割は森林です。まちなかから1時間ほど車を走らせば、森が広がる地区に差し掛かります。浜松市民にとって身近にある森ですが、実際に訪れる機会は少ないかもしれません。
天竜の森ってどんなところ?どんな楽しみ方ができるの?
今回、天竜の地できこりを営む前田剛志さんを尋ねて、天竜の森の魅力を聞きました。
いま、見直されている天竜の森
仕事に生活に慌ただしい日々を生きる私たちにとって、いま必要なのは“森の力”かもしれません。なぜなら、森には、人を癒す要素があるからです。樹木から発せられる「フィトンチッド」という成分には、自律神経を整えて癒す効果があります。また、草木の緑色は、心の乱れやストレスを鎮めてくれます。
日本で2番目に広い面積を持つ浜松市。南アルプスの南端部へと続く北部の天竜区は、森林の多いエリアとなっています。まちなかから車で約1時間というアクセスの良さも手伝って、近年、天竜の森の利用価値が増しているそうです。
たとえば......
1.FSC認証材の供給地として
2.企業研修の場として
3.休日をすごす場として
1.FSC認証材の供給地として
約9万haの森林が広がる天竜区の一帯では、広大な森林面積を活かして林業が営まれてきました。近年では、森林にFSC(※)の認証を受けようとする取り組みが進み、国内で有数のFSC認証材の生産地となっています。
(※)FSC|「Forest Stewardship Council®/森林管理協議会」の略。持続可能な木材の生産や、流通・加工のプロセスを認証する非営利の機関。FSCより認証を受けた森林で生産刺される木材は、①森林の環境保全に配慮し②地域社会の利益にかない③経済的にも継続可能な形で生産される、という基準を満たします。
天竜地区のスギやヒノキの生産地は「天竜美林」と呼ばれ、日本三大美林に数えられてきました。とくに柔らかく色が良いとして「天竜杉」のブランドが付いたスギは、高い評価を受けてきた国産材のひとつです。
近年、天竜美林を中心に持続可能な森林管理を広げるべく、FSCによる森林の第三者認証を取得する動きがあります。浜松市の全体で128,693㎡ある木材の生産量(2017年度、静岡県統計要覧)のうち、80,143㎡でFSCの認証が取得されました。FSC認証材は、行政機関の施設一部や市内の金融機関・飲食店舗などで使用されているほか、東京オリンピック・パラリンピックの関連施設での利用も進められています。
▼FSC森林認証 主な活動経過 2018年8月浜松市HPよりhttps://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/ringyou/portal/ringyou/fsc/index.html
2.企業研修の場として
企業研修を森で行おうと考える企業が増えているそうです。静かな森は、自分と向き合い眠っていた感覚を呼び起こすのに最適な空間です。穏やかな時間を過ごすことで、仲間同士の絆が深まったり、良いアイデアも生まれたりするそう。天竜の森にも、企業研修のために東京などの都会から来る方がいるそうです。
3.休日をすごす場として
天竜の森への入り口には、二俣という交流地点にあたる町があります。国指定の遺跡でもある二俣城の城下町として栄えました。その中心地に「山の舎」というカフェがあります。ここは、地元出身の若きオーナーが営むお店。美味しいコーヒーと軽食を通じてコミュニティが生まれる場となっています。
この山の舎を中心に、人や自然とのふれあいを求める人々がつながり始めているそうです。山で行うYOGAや焚火を囲んで語り合う会など、さまざまなイベントも開催されています。山の舎では旅行業を立ち上げ、アウトドアや天竜の人々の魅力に触れるプロジェクトも計画中とのこと。休日をゆっくり過ごすのに、とっておきのエリアになりつつあります。
天竜の森には差し迫った課題も
豊かな自然と人のつながりに触れられる天竜エリア。その森には、知られざる課題もあると言います。
それは、天竜の森林に植わっている樹の約9割がスギやヒノキだということ。在来樹もありながら、木材として売る目的で人工的に植えられたものも多いそうです。これまでは伝統的にきこりが間引きや伐採をすることで、適切に管理されてきました。
しかし近年、外国産の安い木材に押されて国産材が売れなくなったことで、管理をしきれない人工林が増えました。放置された人工林は、山の生態系(バランス)を変え、土壌を弱体化させて土砂災害を引き起こす原因となります。また、育ちすぎたスギとヒノキは、花粉症の原因にもなってしまいました。
「花粉症を引き起こすからといって、スギやヒノキを敵対視するのは寂しい気がします。木々が花粉を飛ばすのは、子孫を残すため。花粉が過剰になるのは、生命の危機を感じているからなんです。同じ種類の木が密着しているので、スギやヒノキが『自分は子孫を残せるかな?』と不安になっているんです」と、前田さんは森の現状を教えてくれました。
「美しい森の未来に貢献したい」前田さんはそんな思いで千葉県から移住しました。現在、天竜できこりを営むかたわら、山や森の現状を伝える講演活動を行っています。
きこりになろうと思ったきかっけは、日本の自然の素晴らしさに気づいたこと。国立公園に指定される尾瀬を訪れた際、その水の透明度に感動したといいます。その後、世界中を旅したときには、日本の自然の豊かさを改めて痛感したそうです。
「100年後に日本に生まれる子どもたちのために、みんなが好きになるような森をつくろう」と決意し、天竜に移住。きこりの先輩たちに弟子入りをして林業を学びました。
天竜の森の現状を伝えるべく、浜松のまちなかや学校での講演も続けてきた前田さん。その活動は、方々から注目を集めるようになり、天竜の森林や木材の新たな価値を生み出しています。
▼TEDxHamamatsuでの講演「山と街をつなぐ顔の見えるきこり」より
前田さんに教わる天竜の森の魅力とは?
山の上からは、浜松のシンボル「アクトタワー」を中心とする街並みが一望でき、晴れた日には富士山もくっきり見えます。静けさの中に、草木の揺れる音や鳥の鳴き声が響いていました。まちなかから車で1時間のところに、こんな素晴らしい場所があるのですね。
次に、前田さんは、念願かなって購入したという山の一画を案内してくれました。敷地の半分ほどが、生態系豊かな天然の森として残っています。森を散策しながら、自生している樹々について前田さんが教えてくれました。
そこかしこに切られて置かれたままの木が。じつは、買い手が決まっている“商品”だそうです。色合いや質感にそれぞれの特徴があり、インテリアやアートの材料として利用されていくとのこと。
写真の中央は、この山のシンボルのクロモジです。昔は民家の庭先に植えられ、枝を折ってつまようじにしていました。香料としても化粧品や石鹸などに使われ、輸出もされたそうです。
こちらは、在来品種のお茶の花です。150cm以上の高さがあり、まだまだ成長している途中でした。お茶の木は本来、2mほどまで伸びる樹木なのだそうです。茶畑で見る茶樹は、40㎝ほどの背丈がほとんどですね。それは、管理や収穫のしやすさを考えて剪定されているためだそうです。
なんと、天然のユズまで。さわやかな良い香りです。ユズの木にはバラよりもずっと鋭くて固い棘があります。私が収穫に苦労しているのを見かねて、前田さんが採ってプレゼントしてくれました(笑)。
伐採された幹の切れ端からは、「樹が飲んでいたお水」があふれ出していました。樹々の息遣いが感じられますね。前田さんも樹の伐採のために山に入るときは、「樹の命をいただく」という神聖な気持ちになるそうです。天竜には、昔から続く“山の神様に感謝をするお祭り”もあるとのことでした。
実際に森を歩きながらお話を聞くことで、人と自然のつながりを感じることができました。「生かされている」ことを知り、自分のエゴもすっと消えていくようです。
ちなみに、ひとつの苗木が植えられてから成長し、木材として使えるようになるまでは100年かかるといいます。家づくりの材料を自然に頼っていた昔の家は、100年もつように設計されていたほどです。そのように、人はずっと、自然と共存して生きてきました。そこから、「安くて売れる木材を効率的に生産しよう」という考えが大きくなったのはつい最近のこと。気候の変動や災害の多発などは、「その在り方は間違っているよ」という自然からのメッセージかもしれません。
編集後記|
自然豊かな天竜区には新たな動きが生まれ、ますます面白く気軽に立ち寄れるエリアになりつつあります。暖かくなってきたこの季節。人のつながりやイベントをつたって、ぜひ訪れてみてください。
「家庭でも気軽に、森の魅力に触れたい」そんなときは、前田さんプロデュースのクロモジ茶で一息ついてみてはいかがでしょう?
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