7月に収穫する健康米!?合鴨農法を続ける京丸園さんにお話を聞きました。
収穫前のたわわに実った稲穂と言えば、秋にきらめく黄金色の風景が思い浮かびます。ですが、浜松には、7月に稲刈りが始まる田んぼがあるのです。通常の2ヶ月以上も早い収穫。そんな稲作を行うのは、水耕栽培で有名な 京丸園株式会社(本社:浜松市南区)の取締役 鈴木 啓之さんです。
なぜ、そのような早い時期にお米の収穫をするのでしょうか?そこには、家族や農業に対する深い想いがありました。鈴木さんの娘さんである露木里江子さんとご一緒に、お話を聞かせていただきました。
鈴木 啓之 さん|プロフィール
水耕栽培を行う農業生産法人、京丸園株式会社(2004年に長男の厚志さんが代表取締役として法人化)の取締役。400年近く続く農家(現:京丸園)に生まれ育ち、1955年より生産に携わっている。『姫みつば』『姫ちんげん』などのオリジナル商品を生産、全国40市場に周年で出荷する。1997年から障がい者雇用をはじめ、ユニバーサル農園として多くの障がい者を雇用している。現在は"土耕部"にて米、海老芋、根菜類の栽培を担当している。
露木 里江子 さん|プロフィール
鈴木さんの娘さん。静岡大学農学部卒業。卒業後、環境アセスメントの関連企業へ就職する。結婚を機に退職し、4児の母となる。2011年、末っ子の成長を機に小学生対象の学習塾「はてなくらぶ」を自宅にて開講。子ども会やPTAの役員も通じて、地域の子供たちの成長を見守ってきた。2018年4月にaiearth.を設立。魚の養殖と水耕栽培を掛けあわせた農法システム「aiearth式アクアポニックス」を提供する。社名は、末っ子の「愛」さんの名前から。
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元気は健康から。孫のために安心安全なお米を
菅原:水耕栽培やユニバーサル農業を、浜松エリアでいち早く取り入れてこられた京丸園さん。今日は、お話を伺えるのを楽しみにしていました。よろしくお願いします。
鈴木さん、露木さん:よろしくお願いします。
菅原:レストラン向けのミニ野菜が有名な京丸園では、稲作もしていたんですね。しかも、そのお米の収穫が7月という、通常の2ヶ月も早い時期に始まると聞きました。
鈴木さん:どうしてそんなに早く作るんだって、友人からも質問が来るんです(笑)。それはね、食欲の落ちる時期にパワーのある新米を食べて、夏を乗り切りたいからなんです。稲の生命力ってとても強いのね。1粒の種から派生して、1万粒以上もお米が獲れます。それくらいエネルギーがある作物なんだよ。
菅原:稲の種が発芽するためには、ある一定の温度が積算されることが必要です。田植えをするときに、その積算は間に合いますか?
鈴木:それはね、ちょっと工夫すれば到達しますよ。農協さんや農林事務所(※1)さんより、いろいろなご指導をいただきましたね。今まで60数年間と米作りをやってきて、きちんと工夫をすると目標どおりにできるんですよ。
菅原:キャリアが60数年…?失礼ですが、鈴木さん、おいくつになられるんですか?
鈴木さん:僕は、今年で82歳になります。
菅原:えー、とても見えません!
鈴木さん:兄弟が3人いる中で、長男の僕が一番元気で健康です。僕自身が作るお米を食べ続けてるからだと思います。自分の子供も3人いて、さらに孫が8人いて。子どもや孫にも、小さいころから僕のお米を食べさせています。
露木さん:孫のためにと、合鴨農法(※2)も取り入れたんですよ。健康と食の間には、強い繋がりがありますからね。
鈴木さん:今から25年ほど前に始めましてね。安心して食べられるお米を作りたいなと思いました。
菅原:愛情がこもったお米ですね。
鈴木さん:先月、餅つきを催した日に、孫が8人全員揃いました。「みんな頑張ってるよー!」と元気に報告してくれて。「頑張れるのは、じいじ(鈴木さん)のお米を食べたおかげでしょう?」と言ったら、みんな笑っていましたけれど。
露木さん:自分から言うんだね(笑)。
鈴木さん:僕は、病虫も寄せ付けないほど元気な稲を作る。そんな健康なお米を食べた方が、人間も健康でいられるんじゃないかなって思ってます。振り返ってみると、25年間やってきて悪くはなかったなと思います。
露木さん:虫は来なくても、すずめの大群は来るけどね(笑)。
(※1)農林事務所|「農業振興・農業普及・農地整備」などの農業や「森林・治山」といった林業の分野にわたって、さまざまな業務を行っている県の現地機関のこと。
(※2)合鴨農法|稲作において本来農薬を用いて行う殺虫・除草作業を、田んぼでアイガモを飼うことによって行う農法。アイガモは雑食性なので、水田中の害虫を好んで食べる。減農薬もしくは無農薬で稲作が実施できると期待されている。
鈴木家の豪快な!?子どもの自主性を育てる教育方針
菅原:愛情たっぷりのお米を食べて育った露木さん。鈴木さんの教育方針も愛情たっぷりだったのでは?
露木さん:私の学生時代とは、女性は高校を卒業したら就職するか、進学しても短大というのが普通でした。お父さんの意見で進路を決める人も多くて。そんな中、父は、4年制大学へ進学したかった私の気持ちを止めなかったですね。
鈴木さん:娘は、高校では生物クラブに所属していてね。酵母菌の研究をしていたんです。研究が全国大会で入賞して、昭和天皇にもお会いしたこともありました。そのとき、「そうか。娘は、頑張ったんだな」と思ってね。
露木さん:自然界の酵母菌を集めてきては、分析していました。この酵母は香りが良いとか、お酒を造るのに適しているとか。研究に熱中しては、夜中も学校に泊まり込んで試験管を振る日々もありましたね。
菅原:露木さんの一生懸命な姿に、鈴木さんも応援したくなったのですね。鈴木さんは、お子さんの自主性を大切にされているような印象を受けました。
露木さん:豪快な人ですよ。例えば、りんごを箱買いしてきて、「自分で皮をむいて食べなさい」と包丁を子どもに渡すんです。小学生のころには「リンゴ剥きの里江子」と呼ばれるくらい、包丁遣いがかなり上手でしたよ。ひどいでしょう(笑)。
菅原:露木さんも4人のお子さんを持つお母さんですね。子育てで大切にしていることは何でしょうか?
露木さん:子どもたちが、やりたいと言ったことはやらせてあげたかな。とりあえず幼稚園のうちは2年間、スイミングスクールに通わせました。もし水が怖いと、生命に関わることもあると考えて。それから、もしかしたら子どもたちの楽しみになるかもしれないと、音楽教室にも2年間。そこからは、それぞれにバレエや書道、あるいはサッカーなどやりたいことを見つけていきました。
菅原:お子さんの皆さんが、海外や国立の有名大学に通われています。
露木さん:少なくとも、勉強をしなさいと言ったことはないんですよ。塾もね、通っても良いけれど費用は建て替えなんです。将来返していただく約束です。
子どもたちの溢れる個性は、尊重してきました。文系に進みたいと言っていたのに、受験勉強中に「やっぱり理系に行きたい」と言った子もいます。中国で書道を学びたいと言い出す子もいて。みんな、個性がありすぎますね(笑)。
菅原:鈴木家の自主性を育む教育方針が、受け継がれているのですね。
農業への想いと、これからと
菅原:京丸園では、地域に先駆けてさまざまな取り組みを行ってきました。農業に懸ける想いをお聞かせください。
露木さん:お米の栽培に関しては、生き物を殺す性質のものは田んぼに入れないということです。
鈴木さん:良い微生物にとって居心地が良い環境をお世話するのが農業です。もしも、病気が出たら原因を考えること。すると、解決の策に辿り着きます。
菅原:具体的にどういったことですか?
鈴木さん:お米を取り巻く良い微生物が、体の全体を廻って人の健康を作るんですね。そこには、悪い菌もいて良いんです。悪い菌は、動かないように隅っこでじっとさせれば。それを、農薬で消毒すれば良い菌も一緒に死んでしまいます。
例えば学校でも、良い衆が幅をきかせれば良いクラスになる。でも、悪い子も、いざとなると良い働きをするんですよ。
露木さん:「田んぼは、学校のクラスと一緒」か。面白いね、お父さん!
鈴木さん:日本の高い湿度では、ウイルスが発生しやすいなど、全面的なオーガニックの実現は難しいところがあります。でも、うまく対処することはできると思っています。
露木さん:いつでも勉強だよね。
菅原:鈴木さんにお話を伺うと、農業や日々を楽しんでいらっしゃるのが伝わります。
鈴木さん:3人の子どもも立派になりました。今では、僕もやりたいことをやっていますよ。
露木さん:早期栽培のお米を作るのもそうだよね。
鈴木さん:お米を収穫した後の田んぼには、ゴボウの種も蒔いて、二毛作にチャレンジしようとしています。
菅原:そんなバイタリティ溢れる鈴木さんが、今、一番やりたいのは何ですか?
鈴木さん:焼き芋です。
菅原:えっ(笑)?
露木さん:本当にはまっていて、先日、数十万円もするような焼き芋機を買ってきたんですよ!驚きましたが、父が作った焼き芋を食べたら、これがとても美味しくって。焼いた芋から、蜜が噴き出すんです。
菅原:どうして、そのようなおいしい作物ができるんでしょう。
鈴木さん:先代が残してくれた土地があるお陰ですよ。先代が頑張ってくれたので、私も農業を継ぐことができたんです。
孫もみんな頑張っているのでね。一番下の大学1年生の子が、社会人になるまで自分も頑張ろうと思っています。
編集後記|
鈴木さん、露木さんの親子の絆や、農業への愛情を感じる素敵なインタビューでした。京丸園では、小・中学生や、障がいを持つ方とそのご家族を対象とした農園見学や、大人を対象とした視察の日を設けています。詳細は、こちらをご覧ください。
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