地域ぐるみで “楽しく” 農地の保全活動を|「岩田故郷(いわた ふるさと)の会」

農業を通じて農地は適切に管理され、雑草や病害虫の発生を抑制し、野生動物の棲み家と人家は区分されてきました。くらしの安全のためにも欠かせない農地の保全ですが、農業の担い手不足にともない対応が難しくなっています。


そんな中、静岡県では「ふじのくに美農里(みのり)プロジェクト」を発足。国からの交付金を充てて、農地の保全と質の向上に取り組む地域活動を支援する取り組みです。2018年度は、232の地域が認定を受けて活動をしています。


本プロジェクトの特徴は、「地域や生産者ぐるみで、農業の持つ多面的な機能の発揮」が期待されていること。磐田市岩田地区で2011年から活動を続ける「岩田故郷(いわた ふるさと)の会」を訪れ、独自の活動内容やビジョンを聞きました。

資料)多目的機能支払交付金のあらまし


地域の農地をまもる「岩田故郷の会」の活動

▲育成が5年目になるオリーブの木

菅原:今日は、「岩田故郷の会」で会計や広報を担当している青島保一さんに、会の取り組みをお聞きします。よろしくお願いします。

青島:よろしくお願いします。

菅原:最初に、青島さんの自己紹介をお願いします。

青島:生まれも育ちも磐田市岩田です。大学卒業後は、音楽好きが高じてピアノ関係の会社に就職しました。シンセサイザーが世に登場したことで、プログラミングの魅力にはまります。そこからプログラマーに転身し、SEとして企画からすべてできるようになりました。

現在は退職し、「岩田故郷の会」で、得意なパソコン周りのことから事務・会計作業まで担当しています。また、音楽を通じた交流が好きで、地域のお年寄りの交流サロンでも演奏ボランティアをしています。

菅原:「岩田故郷の会」に携わったきっかけは何ですか?

青島:地区の自治会長をしていたときに、磐田市から依頼があったのです。「ふじのくに美農里プロジェクト」に則した取り組みを、岩田でもしないかということでした。

菅原:「岩田故郷の会」の概要を教えてください。

青島:我々は、「ふじのくに美農里プロジェクト」に取り組んでいるメンバー15名の組織です。2011年に始動して以来、岩田交流センターや岩田小学校を中心として岩田地区で活動を続けています。

菅原:どのような活動をしているのですか?

青島:大きく分けて2つです。1つは農地の維持。農地や路肩の草刈りと農地に付随する施設の保守管理です。具体的には、水路の泥上げや陥没した箇所の補修、それからパイプラインの管理といったことが含まれます。

もう1つは、“多面的な”取り組みです。これが本プロジェクトのポイントで、各地域に応じた取り組みが推奨されているんです。我々は、さまざまな花きの植栽を通じて、景観を向上し地域のみなさんに楽しんでいただくことをしています。

菅原:会の発足から7年、どのように発展してきたのでしょうか?

青島:はじめのころは、農地維持のための草刈りがメインの活動でした。続けていくうちに、草刈りのほかにも、地域のみなさんが楽しめることはないかと考えるようになりました。

「菜の花を植えてみようか。コスモスやひまわりも良いね」と話し合って、花を植えてみることにしました。それから野菜に穀類、果樹と栽培品目を増えていきました。熊本から取り寄せたオリーブも植えましてね。実も収穫できるようになりましたよ。

菅原:さまざまなイベントも通年開催していますよね。

青島:はい、ちょうど今日は、「オリーブ祭」を開催して20人ほどお集まりいただきました。オリーブの実の塩漬けや葉っぱでお茶を作りました。オリーブは、しばらく収穫時期が続くので、ほかにも搾油や草木染のイベントを開いていきます。

それから、採れた小麦でピザやうどんを作ったり、ジャガイモやサツマイモの定植や収穫などもイベントにしています。


地域の子どもたちの笑顔のために

▲オリーブの塩漬けとレシピ

菅原:イベント開催の背景には、どのような想いがあるのでしょうか?

青島:地域の子どもたちに農業を体験してもらいたいという想いが、根底にあります。子どものうちから、このような農業体験や自然、土や虫に触れて、少しでも視野を広げてもらいたいと。将来、子ども達が農業に取り組む可能性もゼロではないと思います。

菅原:その一環で、岩田小学校とも交流を始めたのですか?

青島:はい、小学校の隣に使われていない畑がありました。そちらの地主さんが、「子どもたちが来られる場所にしたい」という想いをお持ちで。荒れ地だったのを整備して、花や作物を育ててきました。

菅原:イベントのアイデアはどのように出しているのでしょう?

青島:基本的には、私や組織のメンバーが考案しています。たくさんの子どもたちに来てもらうために、「子どもはもちろん、お母さん方も一緒に楽しめる」という視点で考えています。活動や楽しみを、地域のみなさんと一緒に共有できたらいいですね。

菅原:岩田故郷の会のイベントは、“おいしくて楽しいもの”が多いですよね。

青島:穀物も作っていますからね。今年は、小麦が240Kg収穫できました。7月にうどんを100食作って、地域の子どもたちに無料で食べてもらいました。

そばも、種まきから収穫、調理までみなさんと行っています。おそばで食べたりそば粉のピザにしたり、さまざまに楽しんでます。

菅原:特に女性に喜ばれているのは、どのようなイベントですか?

青島:ラベンダーでフローラルウォーターを作るワークショップなど、花を使ったものでしょうか。中でも、一番人気は、紅花の草木染めですね。鮮やかなピンク色が出るので、喜んでもらえるようです。

菅原:農作物の育成やものづくりに関しては、どう習得しているのですか?

青島:基本は、「手作り」「試行錯誤」です。例えば、こちらのラベンダーのエキス抽出器も、寸胴にパイプを溶接して作りました。洗濯ネットやホースなど生活用品も活用して工夫しています。さまざまな経験をしてきたメンバーの知恵を絞っています。また、交流センターの職員さんに指導をお願いすることもあります。

菅原:まさに、地域一体となった活動なのですね。

▲手作りされたラベンダーエキスの抽出器


岩田が、より魅力ある地域であるように

▲もうじき見ごろを迎えるコスモスの畑

菅原:会の運営において、ご苦労もありますか?

青島:そうですね、事務や会計の処理でしょうか。今は、私が一人で担っています。交付金の使用については、国の会計検査院の監査対象になっていて管理が厳しいんですね。公金ですから、会計が間違うことや不適切な用途に使うことがあってはいませんよね。

菅原:裏方では、大変なことも多いのですね。

青島:大変さもありますが、子どもたちに色々経験してもらえることの方が大切だと思っています。そのためにも、メンバーである自分たちが楽しむことが一番大事ですよね。農作業を楽しく行う、すると、イベントに来てくれる人も一緒に楽しめるという循環を作ること。農地維持というプロジェクトの趣旨も、発展していけばそこに行きつくと思うんですね。

菅原:活動が、地域活性にも繋がりますね。

青島:地域が盛り上がるというのは、本プロジェクトの成功にも非常に大切なことです。地域の方に楽しく喜んでもらえるイベントを意識しているのは、そのためです。組織のメンバーにとっても、憩いの場となっている側面もあります。そういった効果もあり、多目的な活動が大切にされているのです。

菅原:今後、この活動を中心に、岩田がどんな地域になったら良いですか?

青島:農作業を通じて地域づくりに取り組む方が、少しでも増えてくれたら嬉しいです。周りを動かすためには、自分たちがまずやってみてその姿勢を示すこと。「まずはやってみよう」が、私たちのモットーです。

菅原:素晴らしい取り組みが広く伝わると良いですね。

青島:会の活動を知ってもらうことから出発しようと、去年の2月からFacebookを通じた情報発信も始めました。本会やイベントに関心を持って、ここへお越しいただく方もいらっしゃいます。まずは、そうした意識付けからと思い、活動の発信を続けています。

菅原:触発されたときに、誰でも参加できるイベントはありますか?

青島:11月4日に収穫した小麦でピザを焼いて食べる「ピザ祭」、11月18日には、オリーブを手で揉んでオリーブオイルを抽出する「続オリーブ祭」を開催します。遠方の方でもどなたもご参加いただけますので、お問い合わせをいただけたらと思います。

青島さんのFacebookには、農園の植物の生育状況とイベントの開催の様子が毎日アップされ、フォロワーの方の楽しみとなっている。

▼お問い合わせ先

青島さん Facebook https://www.facebook.com/aoshimakry

編集後記|

地域の人々の暮らしを守るために必要な、農地の保全や維持の活動。岩田では、そこに暮らす人々が、楽しみながら継続して行っていました。

岩田地区の方はもちろん、地域コミュニティや自治のヒントが得たい方など、イベント情報をチェックして出かけてみてはいかがでしょうか?

菅原 岬|浜松在住ライター

浜松在住在住ライター、菅原 岬 のページをご訪問くださり ありがとうございます。 ・不動産関連企業での新規開拓、収益管理の経験 ・タイ、バンコクでの日系企業様設立サポートの経験 を活かし、浜松企業さまの収益向上に貢献する情報発信をしています。

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